1.得意なことは何ですか?
それは、感染症拡大にともなって面会制限がはじまった、3月上旬のことです。
前回の記事でご紹介した「マスク作り」の前に、グループホームの入居者さんが取り組んでいたのは、「ぬいぐるみ作り」です。
午後2時すぎ、入居者さんたちが集うリビングで、「自分が得意なこと」の話になりました。
スタッフ「みなさん、若い頃、お得意だったことは何ですか?」
Aさん「そろばん。わたしは計算が得意だったのよ」
スタッフ「そうなんですね。飲食店で働いていたんですよね。Bさんは何がお得意ですか?」
Bさん「かけっこかなあ……?」
Aさん「わたしも走るのが得意だったわ!」
スタッフ「みなさん足が速かったんですね。わたしは走るのが苦手。Cさんはいかがですか?」
Cさん「おさいほう!」
そのCさんの言葉を聞いたみなさんは、「わたしもそうよ!」という表情になり、一斉にうなずいていました。そこで、普段はあまり話したがらないDさんが、口を開きました。
Dさん「わたしは洋裁店に勤めていたの。そこの先生が厳しい人でねえ。大変だったわ」
スタッフ「そうなんですね。でも、何かつくってみませんか?」
Dさん「そうねえ……。子どもたちが喜びそうなもの……。お人形はどうかしら?」
Cさん「じゃあ、クマのぬいぐるみ!!」
◎かわいい動物たちがリビングに登場!
2.ぬいぐるみ作りが始まった
その3日後、スタッフが材料(布、綿、ボタンなど)を、手芸用品店で買ってきました。
手始めに、スタッフが型紙をつかって生地を切り抜き、Cさんがパーツごとに縫い合わせていきます。その様子を見ていたAさんとBさんから、「わたしもやる!」と手が挙がりました。
まずはパーツづくりから始めます。各自が1体のぬいぐるみを仕上げるため、型紙に沿って線を書き、切り抜いていきます。1フロア9名のなかには、となりで眺めているだけの方も、裁断を手伝ってくださる方もいます。
Aさん「次はどこを縫えばいいのかしら?」
Cさん「わたしの作ったのを見て! まずは、ここを……」
Bさん「あ~あ、疲れちゃったから、ちょっと休憩」
スタッフ「みなさん、あまり張り切りすぎないで、やりましょうね!」
そして、縫い合わせた生地(顔、胴体、手足)に綿をつめていきます。みなさんご自分のペースで手仕事に取り組んでいます。最後にそれぞれのパーツを縫い合わせていくと完成。
手足は胴体にボタンで留めてあるので動かせます。つぶらな瞳には既製品を使っています。
その後、Cさんはクマだけで飽き足らず、耳の形を変えて、赤い目のウサギを製作。みなさんの手仕事により、2~3週間のうちに、かわいらしい色違いの動物たちが、何体も登場しました。
◎裁断した生地を縫い合わせます
◎パーツごとに綿を詰めていきます
◎手足を留めているボタンもおしゃれ
3.針仕事で心もリフレッシュ
このぬいぐるみ製作は「メリハリのある日常」をつくってくれています。
また、併設する保育園の子どもたちとの交流は、グループホームに入居されている方々にとって、楽しい時間を演出してきました。お年寄りがちぎり絵の製作をおこなって手渡したり、ハロウィーンに子どもたちが来てお菓子を受け取ったり。
しかし、この感染症拡大にともなって、日ごろの多世代による交流の場は、残念ながら制限されてしまっています。
Cさん「このぬいぐるみ、作ったらどうするの? どこかに飾るの?」
スタッフ「どうしましょうか。お孫さんたちにプレゼントしてみませんか?」
Aさん「せっかくだから売ったらいいんじゃないの?」
Bさん「そうよねえ。どこか売るところを探しにいきましょうよ」
Eさん「じゃあ、10万円で!」
お裁縫は苦手というEさんも話に加わり、テーブルトークで盛り上がります。その向こうでDさんは、うとうとし始めています。スタッフがそっと声をかけます。
スタッフ「今度、ぬいぐるみを娘さんたちにも写真で、見せてあげませんか?」
Dさん「でも、孫も大きくなったから、おばあちゃんそんなのいらない、とか言われちゃうわ」
1日も早く、ご家族との面会制限が解かれる日を、みなさん心待ちにしています。
◎手足や顔の角度によって表情が変わります!